3月12日(日) 鷹匠の特別講演(@寒河江市)

やまがた雪文化マイスターの松原英俊さんを取材に伺いました。
松原さんは山形県山間の集落で暮らす、日本最後の鷹匠と言われています。

“鷹匠”は、日本の伝統文化として受け継がれてきた鷹の飼育、訓練を行う専門家のことで、自然の中で生活し、鷹と共に野生動物の狩りを行います。鷹匠としての技術を習得するためには長い年月を要し、鷹との信頼関係や自然に関する知識も学んでいかなければなりません。華やかに見える一面の裏で、ちょっとした事故やミスで命を落とす可能性もある、常に危険と隣り合わせの職業とも言えます。

この日は、寒河江市の元町公民館にて、寒河江中部小学校の歓送迎会が行われました。
「普段は体験できないようなことを子どもたちにたくさん経験させたい」
主催の鈴木さんは、そんな想いから、松原さんへの出演を依頼したそうです。

講演では、松原さんがこれまでに体験した自然界での出来事をたくさんお話いただきました。

今日の実演について

皆さん、こんにちは。今日はイヌワシとソウゲンワシを掛け合わせたワシを連れてきています。一番強いワシで、羽を広げると2mくらいの大きさになります。掴む力が大人の2倍以上あって、爪もとても鋭いです。訓練の時も手や足をつかまれることがあります。そうすると、とても痛いです。皆さんにも飛んでくる可能性があるので、親御さんはお子さんから目を離さず、十分に注意をしてください。
 
ワシは獲物と判断したものに対して攻撃をしてきます。ではどういうものを獲物と判断するのか?大きいものは獲物と判断しません。カモシカやイノシシは攻撃しません。小さいものを獲物と判断します。犬でも獲物と判断したら攻撃します。目がとても良いです。今日は小さい子が多いので危ないです。親御さんはお子さんの傍を離れないようにしてください。
 
そして、彼らは肉食なので、草は食べません。今日は実演ということで、鶏の中で一番強い鶏を連れてきました。何だかわかりますか?今日は軍鶏を連れてきました。

早起きは三文の徳

「早起きは三文の徳」という言葉があります。先日早起きをしたら良いことがありました。道路を車で走っていると、動物の死体があったんです。鷹の餌になるので拾って車に積もうとしたら、珍しいハクビシンでした。
もっと良い話があります。先日、真室川町で講演があったので、向かっておりましたら、道路にタヌキが死んでいましたのでこれを拾いました。さらに進むとカラスが群がっていて、よく見たら野ウサギが死んでいてこれを拾いました。さらに進むとヤマドリのオスの死体も見つけました。講演が終わった帰路では、また大きなタヌキを拾いました。1日に4回も出くわすことができた、とてもいい日でした。

雪山での生活

雪山で狩りをしていた時の話をします。連れていた鷹が随分と遠くまで行ってしまいました。追いかけてみると、木の穴をのぞき込んでいました。これは何か動物を追い込んだのだろうと思いまして、勇気を出して手を穴に入れてみました。手を目いっぱい伸ばしたら何か生き物の毛に触れて、毛皮を掴むことが出来ました。思い切って引っ張ろうとしたら、その生き物は手に噛み付いてきたんです。さて、何が噛み付いていたでしょうか?
それはリスでした。
 
山の中で、寝袋を敷いて寝ていた時の話です。テントもなく寝袋だけで野宿していました。近くの崖の方から崩れるような音がして、何事かと思い近づいてみると、そこには真っ白で大きな動物が佇んでいました。さて、何だったでしょう?
カモシカです。真っ白なカモシカがいました。普通カモシカは茶色ですが、まるでヤギのように真っ白で驚きました。
 
さて、寝袋で寝ていると、小鳥が額の上に乗りました。私の髪の毛をクチバシで引っ張ろうとするんです。これはシジュウカラという鳥で、スズメよりも小さい鳥です。巣作りをする鳥なので、私の髪の毛で巣を作ろうとしていたのかもしれませんね。

鷹との生活

鷹の餌として放し飼いをしている生き物がいます。鶏のチャボという種類です。チャボが草むらで巣を作って卵を産んでいました。これを楽しみにしていたんですが、卵がどんどん減っていくんです。ある日みたら8個から5個に。またある日みたら5個から3個に。これは何かいると思っていた矢先、チャボのメスが悲鳴を上げているのが聞こえてきました。近づくと、残りの3個の卵も襲われていたんです。さて、襲った生き物はなんだと思いますか?アオダイショウでした。卵を3個丸飲みにして体が大きく膨れ上がっていました。
さて、蛇についてですが、蛇は噛む力はありません。全て丸飲みなんですね。自分の何倍の大きさまで飲めると思いますか?答えは15倍の大きさまで飲めます。

飛島での体験

何年か前に飛島に行ったときの話です。飛島では春と秋にたくさんの渡り鳥がやってきます。海岸を歩いていたら、真っ白な鳥の死体を見つけました。ウミネコでした。不思議なのは、首から上がない死体だったということです。なぜ首無しが海に浮かんでいるのか?分かる人はいますか?近くの岸壁にハヤブサがいるんです。このハヤブサは習性として獲物を捕まえたら真っ先に首を切ります。途中で海に落としてしまったのを私が見つけた、というのが真相でしょう。

実演

そして、いよいよ実演の時間です。公民館の外にある公園に移動します。

先ほどの話にも出ていた軍鶏の登場です。

軍鶏を放つ際、軍鶏が驚いて戻ってきてしまう可能性があるとのこと。
放つ役割の人が最も危険です。

慎重にスタンバイし、場は静まり返ります。
いよいよその時です。

軍鶏が放たれたのと同時に松原さんの腕にいたワシが
一直線に飛んできます。

その一瞬で勝敗は決しました。
鋭い爪で軍鶏を捉えたワシは、動きを封じて獲物を食します。

松原さんからも緊迫した空気が伝わってきます。

餌を近づけて、自分の腕にワシを戻す松原さん。

まるで何か会話をしているように長い時間、互いの視線を合わせていました。

見事成功し、会場からは拍手が起こります。

私は鷹匠になって40年です。ここまで平坦な道ではありませんでした。鷹の訓練も難しく、雪山で行う仕事なので、雪山・冬山の厳しさもあります。自然や技術の壁だけでなく、他にもたくさんの壁がありました。それは法律の壁であったり、私のような人間を快く思わない人もいました。それでも鷹と生きるという決意で、これまでやってきました。
私は66歳ですが、70歳、80歳になっても鷹を腕にとめて雪山を歩いていたい。それがこれからの私の夢です。皆さんもこれからの人生、ぜひ大きな夢をもって歩んでください。
 
私は昔から、自然や動物が大好きな子どもで、小学校から”野鳥の会”に入って様々な生き物を観察していました。大学に入って、鷹匠という職業があることを知り、「鷹匠になろう」と決意をしました。自然の中にはたくさんの発見や魅力があります。それを多くの人たちに知ってもらいたいです。

松原英俊 プロフィール

1950年、青森市生まれ。少年時代から鳥や動物が好きで、慶応大学在学中から自然の中で生きることを決意。大学卒業と同時に山形県真室川町の鷹匠・沓沢朝治氏の門をたたき鷹匠生活に入る。現在、最大級の猛禽であるクマタカとイヌワシを使って実猟ができる日本でただ一人の鷹匠。鷹狩りのシーズンオフは月山や朝日連峰、飯豊連峰の山岳ガイドとしても活動している。

鷹匠の松原さんを取材するにあたって、はじめは少し怖いイメージがありましたが、お話を聞いてその印象は全く別の物に変わりました。鷹の獲物を襲う鋭さが目立ってしまいますが、松原さんは誰よりも動物や自然を愛する心を持っている人です。自然の魅力に接することが好きで、楽しそうに動物とのエピソードを語る松原さんの笑顔はとても素敵でした。そして話を聞く子ども達も興味津々の様子で、たくさんの質問が飛び交います。獲物を狩ること、弱肉強食の自然界、残酷な一面もありますが、それも自然の一部で、山形にもそういった世界は存在します。雪山で活動する鷹匠だからこそ知っている自然の魅力はまだまだ多いはずです。松原さんが主催する冬山トレッキングにもぜひ参加してみたいと思いました。そして、日本で唯一の鷹匠が私たちの住む山形県にいるということを、多くの人に知ってもらいたい、そんな気持ちになった1日でした。